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創作

乾いた皇帝

不時着した惑星にはペンギンがいた。ものすごい数のペンギンがいた。しかし彼らと共に過ごすうちに徐々に違和感を覚えはじめた。彼らは狩りをするでも繁殖するでもなく、ただそこらじゅうをうろうろするだけなのだ。銅の丘を登り、同胞と肩を寄せ、首を上げ…

仄暗いお湯の底から

この仕事を始めてからというもの、頭の中が詰まっているようだった。これは別に、元々すっからかんの僕の脳みそが有意義で効率的に機能しはじめた、という日々充実してることへのへたくそな比喩なんかじゃない。まるで脳みその皺の間にしこりができているよ…

ハリボテエナジー

効率的な配置のされたこの棒っきれは、雨風も凌げないハリボテであるにも関わらず一人前に塔の名を冠している。鋭く天を刺すような頂きはあらゆる人間を拒み、塔に登ることの単純な高低差というイニシアチブや恩恵を得ることを許さない。唯一の材料である鉄…

DNA

枕の傍の小窓から光が差した。瞼ごしに眼球を撫でる白の色が、瞼の裏の流れる血潮を透き通らせる。陽の光を受けた顔面が、視神経、皮膚、毛穴、鼻の内側のうぶ毛を通して朝の訪れを感じ取り、体全体に報せていく。シャッターの下ろされた脳が徐々に覚醒し、…

クールタイム

「雑草はどこから生えてくるんだろう」 うだるような午後の日差しに背中をじっと見張られながら、軍手にこびりついた茶と緑の色を見つめて独りごちる。むせるような、種類も知らぬ草の匂いを嗅ぎすぎて感覚が麻痺したのか、僕が知っている雑草の何たるかが…

ルービックカスタム

おばあさんが一人で切り盛りしている商店というものに、幻想を抱いていた。こういうもんだ、こうでなくちゃ、こうあるべきだ。それが当たり前とずっと思っていて、その勝手な想像はとても傲慢な一方通行の要求になる。いったい何様のつもりなんだろう。店の…

ネックサイド・アプローチ

その日はとにかく寒かった。今冬最大の寒波だって街頭のテレビもラジオも騒いでる。けど、そんなのは家に帰ってこたつなりストーブなり点ければ吹っ飛ぶ話だ。対して俺は暖房のある店に入るかドラム缶のたき火の輪に加わるかしないと体を暖めてやれない。ベ…

ロックンロール・ラジオ

キーボードに置いた手が止まってから、一体どれほどの時間が経っただろう。目の前のノートパソコンは、文章作成のためのソフトを起動している。変わらない画面でひたすら文字の入力を待ち続ける姿は、主人を待つ忠犬を連想させた。実際は噛み犬に等しい悩み…