というだけの話

東京へまたちょっとした旅行に行った。移動にはいつも新幹線を使うのだが、仕事の終業時間と移動の時間とイベントの時間を考慮して、三大「長距離移動の常套手段」の1つとして知られる夜行バスを利用することにした。一度乗ってみたかったというのもある。

 

夜行バスとは、夜通し運行して朝方目的地に到着する長距離バスのことだ。新幹線に比べて比較的安価で、また、寝ながら移動できるという利点がある。早朝から現地で遊びたい場合に、前日のうちに移動する手間がなかったり、ホテル代の節約になったりする。デメリットといえばバスの中に長時間拘束されるというもので、乗り物酔いに弱い人にとっては相当な苦痛だろう。あまりの長距離移動に「ケツの肉が取れる」と漏らす人もいたという。

 

おれが乗ったバスは、目的地である東京までおよそ11時間を要した。そのことについては、予約サイトであらかじめ把握していたし、それなりに覚悟をしていた。それに、たとえ長い長い苦痛であっても「やはり夜行バスはつらい」という経験を身をもって得られるのでそう悪いことではないと思った。まんざらでもなかったというわけです。身もふたもない話だけれど。

 

初めて乗った結果、11時間はあっという間だった。体感では2時間程度だったと思う。あっけない。直前まで仕事をしていて疲れていたからだろう。

 

消灯した車内はとても暗い。完全な暗闇というほどでもないが豆電球ほど明るいわけでもない。目が慣れても、自分の前方にいくつ席が並んでいるのかが判別できない。目に映る黒色はシートの色なのか、そこに座っている人の頭の色なのか、そのまた前のシートの色なのか。

 

高速道路を走る振動のせいか、なかなか寝つけない時間があった。それでも意識の半分くらいは眠っているようで、まともに頭が働かないままぼやーっとしていた。目に映っている車内の風景が夢であるような気がして、まどろんでいた。本当は眠っていて、眠ったまま開かれている目が寝ぼけたまま情報をひろっているのかもしれない。眠っている間も脳は働いているというし。

でも自分が目を開けたまま寝る人かどうかなんて分からない。そんな事を指摘されたことがなかった。

兄はよく薄目を開けたまま眠る人だったが、寝ている間も目の前が見えていたのだろうか。少し気になった。