10分間の菩薩

日記を書くといった翌日に寝落ちしてさっそく書き損ねた。しょうがないじゃない。夜勤だもの
夜勤は疲れる。どれくらい疲れるかというと、今これを書いている時ももう夜という字がゲシュタルト崩壊を起こしているほどだ。そのまま遊びに行こうものなら、行き先は慎重に選ばなければいけない。徹夜した時のどうかしてるテンションとよく似ている。顔や髪はべたべた、あらぬ方向へ思考が跳ね回り理性的に振る舞ってもどこか欠けている。おれも例に漏れず、どうかしてる頭でホットドッグを4個も食べちゃったりする。みんなそうだと思う。急にポテトサラダを1キロくらい作ったりしてると思う。パチンコとかやってなくて良かった。
辛い・眠い・長いのトリプル役満にも関わらず点数は安いときたもんだ。得られるリターンは少ないくせに差し出すリスクは高い。定期的にやってくる夜勤に、そんなに稼ぎたいのかおまえらはと、ロボットモノの主人公みたいな言葉が思わず口を突いて出る。稼ぎたいからおれみたいなのも雇っている事実には都合よく蓋をする。やたら社会に反抗するのは10代とチェ・ゲバラの特権。関係ないけどゲバ棒の語源ってゲバラじゃないんだね。いつも持ってるイメージだったから。キューバ行きてえ。


散々言ったあとで何だけど、個人的に好きなところもある。もちろん仕事は好きじゃない。道端の花を愛でる的なそんな楽しみだ。

頭の後ろから浴びせられる叱責の連打と、終わりのない作業に追われる一夜を乗り越えて迎える朝日が好きだ。なんともいえない気持ちになる。工場の高い窓から差し込む朝日は、演出なんじゃないかと笑えてくるくらい白く、けして侵すことができない神聖さがある。実際眩しすぎて光の先が見えなくなる。外で核爆発でも起きてないと不自然なくらいな眩しさ。本当に漫画みたいなことあるんだなってつい見てしまう。細い金網にびっしり積もった粉塵が反射して氷砂糖みたいに輝く。それらを眺めながら歩いていると、仕事から解放された喜びと疲れからかとても優しい気持ちになる。その間だけおれはたぶん解脱してる。ただし工場から帰るときまってミーティングがあるので悟りが閉じる。魂が涅槃を求めている。

余談として、夜に業務を終えて歩く風景も好きだったりする。遠くで揺れる高炉の大きな蒼い焱。過剰すぎるスポットライトの集合体。風で倒れないか心配になるジブクレーンの、暗い白と赤。どこか現実味がなくて、その方向へ歩いても景色は変わらずけして辿りつけないんだろうなという気持ちになる。でも一緒に歩く先輩たちは誰もそれを見ようとはしない。おれはそれが寂しかったりする