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ダミー・バー・ヘッド

開け放した窓から空を見上げたら、蜘蛛の巣を見つけた。ふと手を伸ばすものの、何度やっても空を切る。

はて。どうやら空に巣を張っているようだ。戦闘機が引っかかっている。脱出したパイロットは、やはり蜘蛛の糸に絡め取られていて、むしゃむしゃと食べられた。

食べカスが地上に降る。あの辺りはスラムのはずだ。といっても、ここらはどこもかしこもスラムなのだけれど。スラムに、血とヘルメットの雨が降る。きっとみんな、怯えてすくむ。露店の屋根に穴が開き、くず肉のスープがひっくり返る。

次に戦闘機がスラムに降った。蜘蛛が、その8本ある足のうち3本を器用に動かして、蹴落とした。戦闘機は頭から地上に打ち付けられて、バラバラになる。スラムもまた、戦闘機に打ち付けられて、バラバラになる。頭から血を流して泣く子供。ひっくり返ったスープが冷めていく。墜落現場では、運よく生き残ったものたちが、運よく生き残ったパーツを持ち帰っていった。シートの綿のひとつまみも、割れた計器の針のいっぽんも、余さず全部持っていった。あっという間に、骨組みすら運ばれていって、そこには崩れた石畳だけが、食べカスみたいに散らかっていた。

ふと空を見上げると、蜘蛛が蹴落とされていた。大きな花火が咲いて、なのに、不発弾みたいに、蹴落とされた。けばけばした、縞模様の、風船のように丸い腹が。音もなく、ぐずぐすと、ゆるゆると、けど確実に、スラムに降り注ぐ。僕らはみんな、何も言わず、ただそれを見ていた。

スラムじゅうの、屋根どころか建物全部を突き破り、くずな僕らはたちまち潰されてしまうだろう。もうすぐ蜘蛛と僕らと、怪しい肉の血のスープが、スラムの壁の中いっぱいに注がれる。僕らの世界が、ひっくり返る。子供の泣き声が聞こえる。